
おすすめ度
帰りづらい故郷だが息詰まった気持ちに開放感を取り戻す。
おすすめ度:★★★☆☆【3点】
あらすじ
30歳でCMディレクターをしている砂田は、東京で日々仕事に明け暮れ、理解ある優しい夫もいて、充実した人生を送っているように見える。しかし最近は、口を開けば毒づいてばかりで、すっかり心が荒んでしまっていた。そんなある日、病気の祖母を見舞うため、親友の清浦とともに大嫌いな地元の茨城に帰ることになった砂田は、いつものように清浦と他愛ない会話をしながら茨城に向かうが、実は今回の帰省に清浦がついてくるのには、ある理由があった。
引用元:映画.com
感想
ブルーアワーとは「1日の始まりと終わりに一瞬だけ訪れる静寂の時間」。
それに「ぶっ飛ばせ」という乱暴な言葉が繋がりどんな映画なのかと観てみました。
夏帆が演じる主人公は、結婚をしてるもののお互いに不可侵条約があるのような冷めた距離感で暮らしており、さらに同じ職場の上司と不倫をしてます。CMディレクターという花形職業ながら愚痴ばかり。以前観た「きばいやんせ!私」ようにやさぐれております。
しかし今作の夏帆は良い!髪型か服装のおかげなのか小さくツルンとした顔立ちが目立ち魅力全開!暗い内面からテンションアゲアゲの幅広い演技も流石だったし。夏帆の良さを改めて見直せる作品です。

準主役のバディを演じたシム・ウンギョン。新聞記者で日本アカデミー最優秀主演女優賞をゲットし勢いを感じますが魅力としては今作のほうが遥かに良いです。今作ではノリノリでみずみずしい透明感がたまりません。清潔感のある白い服もバッチシあってました!また白い服はラストの伏線にもなっております。

前半如何に主人公が行き詰まりを感じ疲弊してるかを見せて、中盤からおばあちゃんが健康になったから(という大人の形。実際は長くない)と田舎に帰ります。旦那にも言わずに。
この田舎編の始まりから唐突にシム・ウンギョンが登場。少し違和感がありますがこれも多分ラストに繋がる部分だと思います。
田舎に帰り最初は父母に歓迎を受けますが、時間を置いて深い時間になるとあまり見たくない良くない部分を見てしまいます。
まずは引きこもりの兄貴とバッタリ。その挙動不審ぶりから敬語を使う始末。そして母親は台所の狭いところで小さいテレビを観ながら独り言のように話してます。なぜそんなところで。。母親に話しかけられ主人公が答えても「最近耳が遠くて聞こえないよー」と会話が成立せずまた独り言のように話してます。

料理をしても父も兄も食べないらしく料理をしなくなったのか汚い台所。それに伴い冷蔵庫の中にはスーパーで買ったのかたくさんのおにぎりが山積みなっており主人公が驚愕。
親の老い。
言葉にならない衝撃でしょう。受け止めなければならない現実。その重み。せっかく自宅で気を楽にしてたのに(風呂に入って昔着てただろう部屋着なんかで見て取れます)ここでも息詰まる感覚を味わいます。
結果すぐにそこから逃げ出したく大雨の中スナックに行きます。
田舎ならではの下世話な話があるなか、スマホのやり取りでイライラ、スナックのママに本音を突かれイライラ頂点でスマホを投げます!どこも居場所がない主人公。
このスナックで女性スタッフを演じた伊藤沙莉。いま勢いがある女優ですが見事に田舎にいそうな女性を演じていました。目の化粧もケバすぎて原型がありません。また主人公に小言を言うママを演じた高山のえみもかなり印象的でした。

帰宅し寝た後ブルーアワー時に目が覚めます。自分の無敵の時間ブルーアワー。幼少時を思い出し外に出て開放感に浸ります。この時に振り返った時に白い服が見えます。小さくてバディの清浦なのかはっきりしませんが少々ゾッとする場面。
午前中に起きて、グダグダしながら午後病院に向かいます。
ここでの名場面はおばあちゃんとの爪切りでしょう。たぶんおばあちゃん役の人は素人なのかな。実際に手を握り慎重に爪を切る夏帆。ここだけドキュメンタリーのような生々しさで夏帆の緊張がこちらにも伝わってきます。爪を切り終わり「ありがとう。」という言葉にこちらも安堵します。夏帆も劇中とは違う真の笑顔でした。
その後ビデオを回しますが、目をぐおーんと開いてピースをするおばあちゃん。この歳になっても可愛く写りたい乙女心が出てて最高の場面です!給水室での親子のやりとりも非常に良かった。
なにか気持ちが切り替わった形で帰宅することに。母親との別れのあっさり具合も非常に良い塩梅。
母親を演じた南果歩。
愚痴を言う少々だらしない母親を絶妙な演技で魅せてくれました。最後別れるところなんて絶対そこに住んでなきゃ行わない動作など芸が細かく作品全体で女優魂を観せてもらいました。改めて名女優なのだと再確認。

開放感ある田んぼ道を走りながら、主人公はバディに心情を吐露していきます。感情が爆発し田舎のありがたさを感じたところで物語最大のオチに。
なんとバディの清浦は元々いなかったのです。
それまで運転してのは清浦でしたが、最後運転席にいるのは主人公で横には誰もいません。ほんの短いカットで困惑しながら終わります。
序盤の幼少時のおばけの話。まっさらな白い服。唐突な登場にいきなり田舎に行く宣言。そしてブルーアワー時の振り返ると白い服。決定的なのは幼少時のノートに書いてある清浦に似た人物。
たぶん主人公がなりたかった素直で明るい人物像なのです。自分が素直なら明るい子供として親と接してたのなら。後悔の念による偶像なのでした。
表裏一体ながらブルーアワー時だけは走り抜けて置いていける切り離せる時間なのかもしれません。
ただそこまでタイトルの意図を解釈できませんし、清浦は母親と会話してるし買い物もしてます。ラストでどんでん返しにしたいため道中バレないよう夢か誠かの感じにしたのでしょうか。それにしても少々うまくありません。
清浦が実際にいても映画のメッセージは伝わって来てるので問題なかったと思うんだけどな。。出発時に外車による左ハンドルを強調してたのなら、終始右側にいた主人公が実は右ハンドルで運転してました。のほうがスッキリした。
さらに気になる点として作品全体に温かみをもたせる印象的な効果音ですが、独特さが勝ってしまい自分には違和感。
最後にドドッと母親みたいに愚痴が出てしまいましたが、最後に思うのはみんなの笑顔。たまに思い出してしまうんだろうな。非常にほっこりする映画でした。
データ
製作年:2019年
上映時間:92分
監督:箱田優子
キャスト:夏帆/シム・ウンギョン/渡辺大知/黒田大輔/上杉美風/小野敦子/嶋田久作/伊藤沙莉/高山のえみ/ユースケ・サンタマリア/でんでん/南果歩
リンク
予告
心に残ったロケ地
清浦初登場するカフェ。他の作品でもよく観ます。
東京都新宿区西新宿5丁目 マックス(COFFEE MAX HOUSE)