殺害に至る経緯を丁寧に描く【楽園】ネタバレ・レビュー

殺害に至る経緯を丁寧に描く【楽園】ネタバレ・レビュー
https://eiga.com/movie/89685/gallery/
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おすすめ度

あの時あの場面、自分はどちら側なのか。。
おすすめ度:★★★★☆【4点】

あらすじ

ある夏の日、青田に囲まれたY字路で少女誘拐事件が起こる。事件は解決されないまま、直前まで被害者と一緒にいた親友・紡は心に深い傷を負う。それから12年後、かつてと同じY字路で再び少女が行方不明になり、町営住宅で暮らす孤独な男・豪士が犯人として疑われる。追い詰められた豪士は街へと逃れ、そこである行動に出る。さらに1年後、Y字路に続く限界集落で愛犬と暮らす養蜂家の善次郎は、村おこし事業を巡る話のこじれから村八分にされてしまう。追い込まれた善次郎は、ある事件を起こす。
引用元:映画.com

感想

吉田修一原作×瀬々監督。観る前から濃厚そうな感じがします。

原作は吉田修一の短編集「犯罪小説集」からですがタイトルは「楽園」と意味ありげ、また映画内にも「罪」「罰」「人」と章ごとにタイトルがあります。正直なところそこまで強く捉えてないで良いかなと。言わんとする意味はわかるがピタリと合ってるかというと人それぞれだと思います。

一応「楽園」という言葉は映画内に出てきます。

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今作は今市市の少女が行方不明になり殺害された「栃木小1女児殺害事件」と限界集落で起きた「山口連続殺人放火事件」がモチーフになっております。

「栃木小1女児殺害事件」は自供以外の根拠・証拠が一切なく冤罪が濃い事件、「山口連続殺人放火事件」は限界集落で村八分にされ恨みからの犯行とどちらも話題性があった事件。特に後者はかなり衝撃を受けて「つけびして 煙り喜ぶ 田舎者」を鮮明に覚えています。

そして最初の事件を綾野剛、もう1つは佐藤浩市が演じ、そのつなぎ役として杉咲花が起用されております。

どちらも犯罪も殺害も直接描写はありません。ここらへん瀬々監督らしい。
Y字路事件は最後まで綾野剛が犯人かどうかわからず、佐藤浩市は多分犯行してるんだろうという感じ。スッキリしない人はいるでしょうが自分はこれで良いと思う。

綾野剛演じる中村は、はっきり描いてませんがアジア系の出身で偽物ブランドを売るというあまり褒められた仕事ではなく、その負い目なのか母親からの愛が無いのかいつもオドオドし寡黙。

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事件から12年後、同じような行方不明事件が起き、当時を知ってる人達があいつが前から怪しかったと捜索そっちのけで大集団で家に押しかけます。ここの集団心理が非常に怖かった。お役所の真面目そうな人も面白がって行ってしまう感じがさらにこの行動心理の恐ろしさを助長してました。

家にはいなかった中村だが自宅前で気づかれ逃走。蕎麦屋に隠れるもあの集団に納得してもらえるコミュニケーションスキルが無いことを自覚、もう助からないと思ったのでしょう。焼身自殺を図ります。

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なぜそこまで追い詰められたのか。しかしあの襲いかかるように迫ってくる集団、誰も味方がいない状態で待ち構えることなど不可能でしょう。

誰かを悪いと思ったらテコでも動かないほど決めつけ徹底的に襲いかかる。昨今のSNSの炎上と似ております。最後焼身自殺なのもこれを揶揄しての演出なのでしょうか。

さらに時が進んで、今度は佐藤浩市演じる田中善次郎がメインに。
自分が育ち、親の介護で戻ってきた故郷。親が亡くなり嫁も亡くなり、1人で養蜂と万屋で生計と立ててます。

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周りの集落とは仲は良く、養蜂で町おこしをしたいとみんなに相談すると快く受けてくれることに。しかし役所に町おこしの提案が通したところで話がぐぐっと変わってきます。なんと限界集落の老人達は話半分と思っており実際動かれることに快く思っていません。とにかく自分達中心に動かないと嫌なのです。当然今の環境が変わられることも嫌なのでしょう。

勝手なことをされたと激怒された善次郎は、変な噂を流され暇な老人達に監視されゴミも持っていってくれません。なんで真面目にやってるのにと怒りを覚えますがエスカレートする村八分に耐えきれず謝りに行きます。しかし話を聞かれるでも怒られるでもなくその場を去って行かれるだけ。あのやさしそうなおばあちゃんでさえ顔を少し崩しただけで去っていってしまいます。なんとも恐ろしい老人達の結束力。

そんな中でも家の裏で苗を植え、更地を森に帰すことを生きがいになんとか生活しておりました。頑張る善次郎。しかしそんな幸せの場所も残酷なことに違法行為と言われ、全ての若木を掘り返されてしまいます。

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怒り!激怒!憤怒!

場面は急に変わり事件を伝えるニュースが伝えられてます。つまり最悪の行動を選択してしまったのです。場面は更に変わり、森の中で血まみれの中逃げ惑う善次郎。疲れ果て倒れここまでかと腹切りを実行。かなり切り込み見た目は助からないだろうと思わせますが警察に見つかり救急車に運ばれます。安否は不明。

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杉咲花演じる湯川紡はY字路事件の被害者少女とは最後に合っていた少女。別れ際被害者にひどい態度をとったこともあり、また「お前がなぜ生き残った」と言われ心に深い傷を負い生きてます。

最後、大人になった湯川紡はY字路に立ち、今まで映画内ではぼやかされた事件当日Y字路のことを思い出します。

ここで今まで固定だったY字路の構図がズズッと左に動きます。その先にはこれも今まで犯行がぼかされていた中村がいました。その展開ちょっと鳥肌が立ちましたね。

最初は湯川紡が受け取るはずだった花かんむりを被害者少女は中村に渡します。その優しさを味わったことがなかったのか、フラフラと被害者少女の後を追いかけるところでその場面は終わります。つまり残念ながら犯行に及んだという暗示でしょう。

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この優しさを受けた後、本能のままに動いてしまうという展開は善次郎にもあります。

集落でもいい感じになってた出戻りの黒塚久子と温泉に行くことに。そこは混浴だったこともあり、また開放感もあってか気持ちの吐露して久子に慰められます。触れらたことに一瞬にたじろぎますが、村八分の閉塞感で久しく受けてなかった優しさだったのでしょう。感情が爆発し熱烈な接吻をしてしまいます。佐藤浩市のがっついて舌を絡ませるキスがなんとも見てられない(つまり最高の演技!)。

実は久子は温泉に入る前に自分の裸体を見て決心めいたものをしてました。たぶん善次郎に裸を見られその先もあるのではないだろうかと。。しかし予想もしなかった獣のような善次郎に困惑。逃げ出します。正直見てる側も困惑してしまう場面ではありますが、人の優しさというものが枯渇し存在そのものを忘れてた時に突如現れた優しさ、その行動は常軌を逸してしまったのかもしれません。

犯行は当然あってはならないものですが、そこに至る経緯には自分は加担してしまってるのではないか、元々の異常者ではなく異常者を作り上げてしまったの自分なのではないか。そんな問いを受ける映画でした。

データ

製作年:2019年
上映時間:129分
監督:瀬々敬久
キャスト: 綾野剛/杉咲花/村上虹郎/片岡礼子/黒沢あすか/石橋静河/根岸季衣/柄本明/佐藤浩市

リンク

映画.com

予告

心に残ったロケ地

Y字路
長野県駒ヶ根市 大御食神社近く

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